2005年04月21日

ネットとジャーナリズム

HotWiredでブログを書いている佐々木氏が毎日新聞にこんな記事を書いていた。
ネット時代のジャーナリズム:ブログはジャーナリズムになりえるか 佐々木俊尚の視点
前々から思っていたことだが、この記事を読んでますます確信が強まったので
ネットとジャーナリズムに関して考えたことを書いてみる。 
 
 
◆ジャーナリズムをスーパーマーケットとレストランに例えてみる
ジャーナリズムの中身を大きく分けると「情報の提供(食材屋)」と
その「情報を分析し、誰にでも分かる形で広く知らしめること(料理屋)」になると思う。
例えていうならスーパーとレストランを併せたような存在だ。
この観点から見れば、既存のマスメディアが行っていること、そして現在ネットで起きていることが分かりやすい。


今までは素材を買うにも料理を食べるにも「マスコミ」というチェーン店しかなかったと思ってくれればいい。
直接食材を手に入れるのが難しかったり、店を開くこと(情報発信)が難しかったりしたため
「マスコミ」チェーン以外の店はほとんど存在しなかった。
そのため消費者もずっと「マスコミ」チェーンを利用してきたわけだ。
しかしネットが生まれたことにより食材入手・開店の難易度が格段に下がり(第一のブレークスルー)
更にブログというツールが出来たことにより店舗維持のコストも下がった(第二のブレークスルー)


◆素材提供と料理は分業可能だ
現在のジャーナリズムは「情報の収集発信」と「情報の分析提示」の二つをまとめて行っているが
実はこの2つは別物であり、食材提供(一次情報の提供)と料理(集まった情報の分析)は分離可能だ。
つまりどちらか片方だけに特化して業界に参入することが可能というわけだ。
特に情報分析(料理屋)の分野にはブロガーが進出しやすい。

タマネギ、ニンジン、ジャガイモ、豚肉という同じ食材を使っても、
レシピと調味料次第でカレー、肉じゃが、豚汁とまったく違う料理が出来るように
同じ素材でも店の傾向と料理人の腕次第で様々な料理に化ける。
ネットにはすでにマスコミというスーパーでそろえた食材に独自の調味料を加えておいしい料理に仕立ててみせるブログが多数存在している。
そして一流の料理人のつくる料理は既にレストラン「マスコミ」の味を凌いでいる。
情報の分析という面で、既にマスコミはネットに客を奪われ始めているのだ。

また、食材の提供(一次情報の提供)という分野でもスーパー「マスコミ」の足元が脅かされている。
すでに多くの官公庁、民間組織でマスコミに発表した情報をウェブ上にも公開しており
ネット利用者はマスコミによる加工を経ていない情報を直接入手可能だ。
さらに一部の専門家が自分の専門分野の情報をネットで直接発信し始めており、
これなどは「専門食材店」として捉えることが可能である。

マスコミはマスコミであるがゆえに高級料理店にはなれない。
和食だけでも洋食だけでもならず、ファミリーレストラン的なメニューの取り揃えが必要だ。
それゆえに全体のバランス優先で個々の分野を深めることが出来ず
和食、洋食、高級料理など様々に特化した店がネット上に現れた時にはそちらに客を奪われることになる。
食材の用意という点でも、スーパーや百貨店にはなれるが専門店にはなれない。
ゆえに専門店に比べ、専門性の深さという点でどうしてもハンデを負う。


◆「ネットはマスコミを殺すか?」
さて、それではネットはマスコミを殺すのだろうか?
この意見はブログ界隈でも時々見かけるが、私はネットがマスコミを殺すという意見には否定的だ。
実社会でスーパーと専門店が共存、あるいは専門店がスーパーに吸収されたりしているように
ネットでも両者は共存しうる存在、互いの足り無い部分を補完する存在だと思っている。

とはいうものの長い間独占市場のぬるま湯に浸かり続けていたマスコミが
提供する商品のクオリティを落としていることは間違いなく、当分はネットに客を奪われ続けるだろう。
特に料理(情報分析)の分野ではそう簡単に劣勢を挽回できるとは思えない。
少なくともあと3年くらいは今の状況が続きそうだと見ている。
団塊の世代がいなくなってネット世代が実権を握るまではそう簡単に変わらないのではないか。


注目すべき点は、食材屋としての「マスコミ」はまだまだ需要が大きいことだ。
そこでマスコミが今後とるべき道としては次の3つが考えられる。
1.素材提供に特化(一次情報の収集発信に特化)
2.情報分析力(料理の味)の向上に勤め、客を取り戻す。
3.専門店、腕利き料理人を自分の内に取り込む。


◆マスコミはブログを取り込めるか?
1,2については説明するまでも無いと思うので、3についてもう少し触れておく。
ネット上には専門素材店といえる一次情報の発信者も存在することは先程も述べたとおり。
そしてマスコミはスーパー的な存在だ。
ならばスーパーが内部に専門店を取り込むことがあるように、
ネット上の有為な情報発信者を自身の内に取り込む選択肢があって然るべきだ。
また、料理のクオリティを上げるために外部から腕利き料理人をスカウトしてくるという選択肢も当然ありうる。
実際にアメリカでは既にそういう動きがおきている。
日本の場合マスコミ業界の人材流動性の悪さがネックになるだろうが
先のことを考えれば決して排除できない選択肢のはずだ。


◆雑感
以下、佐々木氏の記事に対して抱いた雑感。
佐々木氏の書いているもので面白かったのがこの部分だ。
 さらに言えば、日本のブログの多くは、一次情報に欠けている。現在のところ、日本のブロガーが積極的な取材を行っているケースは非常に少ない。多くのブロガーは、一次情報を新聞や雑誌などに依拠している。私の知るマスメディアの報道記者たちは、ブログに対して批判的な意見を持っている人間が実に多い。「しょせんはわれわれが集めてきた情報について、コメントをこねくり回しているだけじゃないか」というのである。

真実の一端をかすめながらこんな結論に辿り着いてよしとしてしまうのは、彼らがいまだに現状を理解していない証左だろう。
その「一次情報の分析」がなってないから、言い替えれば料理の腕がへぼいからブログに読者を奪われているのに。
「所詮はうちのスーパーで買った食材じゃないか」だって?
自分のところの食材すらろくに調理できない人間が吐いていいセリフではない。
あきれを通り越して哀れみすら感じるほどに何も分かっていない。

佐々木氏はそこのところを理解されているようだが、
こういった勘違い記者を淘汰していかないとマスコミの質は向上しないだろうなと
やや悲観的な思いを抱いた。
やはり世代交代が終わるまで大手メディアは変わらないのだろうか?


◆団藤氏のこのエントリに関連して―
話は変わるが団藤氏がちょうどいい話題を扱っていたのでまとめて言及。
ブログ以前からメルマガというミニメディアが存在したというのはおっしゃるとおり。
これらがブログに移って来たら面白いことになりそうではある。
受益システムが存在しないとジャーナリズムができないなんて何を甘ったれたことをというのも心から同意。
ただメルマガを参加型ジャーナリズムと呼べるかどうかはやや疑問が残る。
そういう主旨のものがあったかどうか知らないのであくまでも一般論だが
読者の意見のフィードバックが可能だとしても、メルマガはあくまでもテレビや新聞と同じ一対多のメディアだ。
しかもメールという閉じたシステムを介して行われるため議論が外に波及しない。
10万人の読者を誇るメルマガが現実メディアに何か影響を与えたという話も聞かない。
「参加型ジャーナリズム」自体まだ定義があいまいな言葉なのだが、
少なくともただの「アマチュアが作っているメディア」というだけでは
「参加型ジャーナリズム」とは呼べないと思うのだが…

ちなみに私は「参加型ジャーナリズム」は分業型ジャーナリズムだと思っている。
分散ネットワーク型ジャーナリズムと言い替えてもいいかもしれない。
個々人がそれぞれ断片的な一次情報を持ち寄り、それをエディター的な才能を持つ人間が記事としてまとめ上げる。
そしてWikipediaのようにエディターも一人である必要はない。
一人の人間が全てをこなすのではなく、ネットワークコンピューティングのように
こういった分業がネットワーク上で行われるのがネットでの参加型ジャーナリズムだと思うのだがいかがだろうか?


<追記>
23:30加筆
posted by 黒影 at 13:23| Comment(6) | TrackBack(3) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こちらに書き込むのは初めてですね。

ものすごく納得してしまいました。
ネットとマスコミの関係についての疑問が一気に溶けていくようでした。

蛇足になるかもしれませんが、マスコミが危機感を募らせているのは「新聞購読」・・・つまり直接スーパーに食材を買いに来てくれる客が減っていることもあると思います。
同じスーパーがやっている通販で買い物をしてしまう人が増えてしまって。
特に、直接来店してくれる客からは「入場料」(購読料)を取れるのに、通販を利用する客からは手数料すらもとれないというのは痛いのかもしれません。

通販では買えないもの、来店しないと手に入らないもの、そうした商品を充実させることもマスコミには必要なのかなあと。
Posted by カリー at 2005年04月21日 19:57
>カリーさん
カリーさんにそういってもらえると心強いです。
実は結構荒い論理構成で穴や書き足りない部分があるので
もうちょっと手を入れないといけないなと思っていたりします。

>蛇足になるかもしれませんが、マスコミが危機感を募らせているのは「新聞購読」・・・つまり直接スーパーに食材を買いに来てくれる客が減っていることもあると思います。
>同じスーパーがやっている通販で買い物をしてしまう人が増えてしまって。
>特に、直接来店してくれる客からは「入場料」(購読料)を取れるのに、通販を利用する客からは手数料すらもとれないというのは痛いのかもしれません。
これはいい例えですね。
今回は情報発信のみに着目して経済的な側面は切り捨てて論を展開しましたが
経済面を取り扱う時はこの例えを参考にさせていただきたいと思います。

ネットの情報との差別化というのはマスコミがとる道として当然考えられる方法ですね。
そういう付加価値をつけていかないと正直マスコミ業界は今後ジリ貧になっていくかと。
Posted by 黒影 at 2005年04月21日 23:25
面白かったっす。
ネットも玉石混合、結局どんな媒体だろうが、優れた料理人が生き残る世の中になるのでしょうね。
マスコミは無理にネットと対抗しようとせずに積極的に優れた料理人=ブロガーを囲い込むのが合理的でしょう。ブロガーは逆立ちしたって全国紙など発行できないわけですから。
食材提供だけでなく、とてつもないアウトプットチャネルを持ってるという自分らのアドバンテージに気付かず危機感だけを募らせるとしたらそれは愚かとしか言い様がありません。
Posted by J2 at 2005年04月22日 17:13
>J2さん
>結局どんな媒体だろうが、優れた料理人が生き残る世の中になるのでしょうね。
結局はそれに尽きるのでしょうね。
ブログでも日々淘汰は起きているわけですし。

マスコミもぬるま湯から放り出されれば真剣にならざるを得なくなり、
情報消費者にとって有意義な淘汰が起こるんじゃないかと期待しています。
Posted by 黒影 at 2005年04月22日 19:35
TBありがとうございました&コメントが遅れてごめんなさい。

スーパーと料理店の例えはいいですね。何年か前に朝日新聞の記者さんと飲んだとき、「新聞は自前で論説するのはあきらめて、伊勢丹方式で各分野の専門家のコメントを集めて乗せる形式にしたほうが良い。そのほうが、世論の動向が変化したときも一部の専門家だけ切り捨てて別の専門家を呼んでくれば論調の調整が容易だし、責任の所在も明確になる」と一席ぶったのを思い出しました(ものすごくいやそうな顔をされましたが)。

マスコミの今後とるべき道についてですが、どれも面白いと思うんです。ただ、日本のマスコミは横並びで同じ戦略を採りそうな気がして、それだとつまらんなぁと思う今日この頃です。

それにしても、団藤氏のエントリーはいつもながら論旨が取りづらい気がするのは気のせいでしょうか。感情的に書いておられる時
は大変分かりやすいのですが(というか、感情的な部分だけはいつも分かりやすい)・・・
Posted by 馬車馬 at 2005年06月12日 08:48
>馬車馬さん
コメントありがとうございます。
>新聞は自前で論説するのはあきらめて、伊勢丹方式で各分野の専門家のコメントを集めて乗せる形式にしたほうが良い。
これはオピニオン欄の拡張みたいな捉え方になるのでしょうか。
私の挙げた選択肢の「3.専門店、腕利き料理人を自分の内に取り込む。」
に近いのかな?
誰の意見を是とするか、新聞の価値判断力を試されそうです。

現状として
共同、時事が「1.素材提供に特化(一次情報の収集発信に特化)」に近く
大手4紙は2,3の間をふらふらしているような感じがします。
各紙ごとに特色が出ると面白くなるでしょうね。


団藤氏は・・・相変わらずですね。
どうも一つの文章に二つ三つの論点を一度に盛り込もうとする癖がおありのようで、
それゆえに論旨がとりにくくなっているのではないかと。
感情的な部分は確かに分かりやすいんですけどねぇ。
Posted by 黒影 at 2005年06月12日 17:24
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