2005年11月14日

無防備地域宣言はリスクファクターとなるか

なにやら無防備地域宣言なるものが流行っているらしい。
無防備地域宣言運動全国ネットワーク
(via 無防備地域宣言運動の嘘 : 週刊オブイェクト)
どうやら私の居住地札幌までもが巻き込まれているらしいのだが、どうもこの運動に参加している人間が大きな勘違いをしているように思えてならないのだ。
 
 
 
「無防備地域宣言」とは、ジュネーヴ諸条約第一追加議定書で規定された、
国際的な武力紛争の発生時における犠牲者の保護に関する取り決めの一部である。
以下該当部分を引用してみよう。
第五章 特別の保護の下にある地区及び地帯
第五十九条 無防備地区
1 紛争当事者が無防備地区を攻撃することは、手段のいかんを問わず、禁止する。
2 紛争当事者の適当な当局は、軍隊が接触している地帯の付近又はその中にある居住地区であって敵対する紛争当事者による占領に対して開放されるものを、無防備地区として宣言することができる。無防備地区は、次のすべての条件を満たしたものとする。
(a)すべての戦闘員が撤退しており並びにすべての移動可能な兵器及び軍用設備が撤去されていること。
(b)固定された軍事施設の敵対的な使用が行われないこと。
(c)当局又は住民により敵対行為が行われないこと。
(d)軍事行動を支援する活動が行われないこと。
3 諸条約及びこの議定書によって特別に保護される者並びに法及び秩序の維持のみを目的として保持される警察が無防備地区に存在することは、2に定める条件に反するものではない。
4 2の規定に基づく宣言は、敵対する紛争当事者に対して行われ、できる限り正確に無防備地区の境界を定め及び記述したものとする。その宣言が向けられた紛争当事者は、その受領を確認し、2に定める条件が実際に満たされている限り、当該地区を無防備地区として取り扱う。条件が実際に満たされていない場合には、その旨を直ちに、宣言を行った紛争当事者に通報する。2に定める条件が満たされていない場合にも、当該地区は、この議定書の他の規定及び武力紛争の際に適用される他の国際法の諸規則に基づく保護を引き続き受ける。
5 紛争当事者は、2に定める条件を満たしていない地区であっても、当該地区を無防備地区とすることについて合意することができる。その合意は、できる限り正確に無防備地区の境界を定め及び記述したものとすべきであり、また、必要な場合には監視の方法を定めたものとすることができる。
6 5に規定する合意によって規律される地区を支配する紛争当事者は、できる限り、他の紛争当事者と合意する標章によって当該地区を表示するものとし、この標章は、明瞭に見ることができる場所、特に当該地区の外縁及び境界並びに幹線道路に表示する。
7 2に定める条件又は5に規定する合意に定める条件を満たさなくなった地区は、無防備地区としての地位を失う。そのような場合にも、当該地区は、この議定書の他の規定及び武力紛争の際に適用される他の国際法の諸規則に基づく保護を引き続き受ける。

はい、ここ注目。
「紛争当事者の適当な当局は、軍隊が接触している地帯の付近又はその中にある居住地区であって敵対する紛争当事者による占領に対して開放されるものを、無防備地区として宣言することができる。」

つまりだ、「無防備地域宣言」というのは要は白旗である。
この地域は占領していいからこれ以上攻撃目標にしないでねと紛争の相手国に対して差し出すときに宣言されるものであって、無防備地域宣言運動全国ネットワークの運動家達が勘違いしているような、平時から宣言しておくことで相手の攻撃から身を守ることが出来るような類の物では無いのである。


ついでに言えば、そもそも地方自治体にこの宣言を行う権限は存在しない。
日本の場合、地方自治体には自衛隊に対する指揮権限がないからだ。
こちらで触れられているとおり、指揮系統が駄目になって地方自治体にその権限が移る可能性はあるが、常識的に考えてそのときにはもう国が滅びているだろう。
 基本的に無防備地域宣言が為される場合というのは,侵攻してくる敵野戦軍を防ぎきれないと当局が判断した場合です.
 政府中枢が全滅した場合は地方公共団体が宣言を出す事は出来ますが,自国政府が機能している限り勝手に宣言しても無意味です.
 自国政府とその軍隊に抗戦の意思がある限り,軍隊がそのままその場で活動を続ければ無防備宣言は無効です.
 無防備宣言とは開放宣言であり,降服宣言です.
 勝手に地方自治体が宣言した場合,「反乱,裏切り」と見なされても仕方ありません.
 なお,日本の国内法では,内乱罪もしくは外患誘致罪に問われた場合には死刑が適用されます.


◆「無防備地域宣言」は地域のリスクを増大させる
平時に「無防備地域宣言」を、それも地方自治体が勝手に行おうというのは、
はっきり言ってその地域のリスクファクターにしかならない。
軍事的な戦略価値がない行政体がこんなことを行ったところで「馬鹿じゃねーの?」でお終いだが、戦略的に価値のある都市でこういうことを行うと、潜在敵はその地域をカモだと考える。
戦略的に等価な二つの都市のどちらかに軍事侵攻する場合、軍民一体となった備えをしている都市と、「無防備地域宣言」を行って平和を夢想している都市とどちらが攻めやすいだろうか?
私なら間違いなく後者を攻める。
後者なら間違いなく軍が足を引っ張られ、うまくすれば戦わずして勝利できるからだ。

戦争において戦闘行為はあくまでも戦略目的を達成するための手段に過ぎない。
戦わずして目標を達成できるのであればそれが一番で、平時からわざわざ「無防備地域宣言」など出すというのは「占領される準備が出来ている」と宣伝するも同じであり、相手からの戦略目標としての順位を上げる行為に他ならないわけだ。

本気で自分達の命と財産を守りたいと思うのであったら「無防備地域宣言」など考える前にまず自分達の住む地域が戦略目標になるリスクを計算して、どういう事態になればやばいかを理解し、逃げ出す算段でも立てておくほうがよっぽどマシだと思うが。


参考までに言っておくと、相手国の軍隊に占領された時点でどのみち無防備都市宣言というのは無意味になる。
相手国の軍隊がいて上記の条件を満たさないわけだから当然だな。
また条約締結前ではあるが、ドイツのドレスデンは第二次大戦中に無防備都市宣言を出したにも関わらず、65000発の焼夷弾を落とされている。パリもまた同様にドイツ軍によって蹂躙されている。
さらにいうとペナルティというのは実際に罰を与えることができて初めて意味を持つものであって、ジュネーヴ条約というのは国連の常任理事国あたりならその気になれば鼻で笑って踏みにじることもできる程度のものだというのも理解しておくべきだろう。


◆参考リンク(ジュネーブ諸条約)
戦地にある軍隊の傷者及び病者の状態の改善に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ条約(第一条約)
 戦地における軍隊の傷者、病者及び衛生要員等に対する扱いを定めています。
海上にある軍隊の傷者、病者及び難船者の状態の改善に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ条約(第二条約)
 海上における軍隊の傷者、病者、難船者及び衛生要員等に対する扱いを定めています。
捕虜の待遇に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ条約(第三条約)(118k)
 捕虜の身分と扱いを定めています。
戦時における文民の保護に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ条約(第四条約)(118k)
 戦時における民間人及び外国人に対する扱いを定めています。
1949年8月12日のジュネーヴ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書 I)(略称 ジュネーヴ諸条約第一追加議定書)1978年12月7日発効
1949年8月12日のジュネーヴ諸条約の非国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書 II) (略称 ジュネーヴ諸条約第二追加議定書)1978年12月7日発効
posted by 黒影 at 19:19| Comment(2) | TrackBack(9) | 論考 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
あちこちで取り上げられている大阪市議会の平成十六年第一回臨時会のやりとりをついでに貼り付けておこう。

>Q「無防備地域とはどういう地域か」
>
>A「占領のために開放された地域です」
>
>Q「それはどういう地域か」
>
>A「いわば無血開城、無抵抗の地域」
>
>Q「占領軍が来たときに白旗を掲げて、どうぞ占領してください、ということですね」
>
>A「おっしゃるとおりです」
>
>ここで議場には失笑が漏れた。質疑は続く。
>
>Q「宣言主体はどこか」
>
>A「外務省の見解では国。防衛に権限を持つものしかできない」
>
>Q「平時に宣言をあげて、誰に通告するのか」
>
>A「わかりません」(再び失笑)
Posted by 黒影 at 2005年11月15日 15:43
Posted by 黒影 at 2005年11月15日 15:50
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